ながおかドキドキ通信


 小説「光る砂漠」−夭折の詩人矢澤宰の生涯ー
  中国での元彦の軍隊生活
 30歳で中国での現地召集を受けた元彦。いきなりの前線ではなく日本軍が傀儡政権で建国した満州国の牡丹江の連隊に入隊した。当時では、すでに中年の域に達していた元彦。もともと体の弱かった元彦は、連日の猛訓練の影響からか微熱が下がらず毎日、咳き込む状態がもう半月も続いていた。
 1945年8月15日、日本は連合国側が提示したポツダム宣言を受諾。ここに日本の敗戦が決定した。
 5月の上北谷の矢澤家の庭
 45年6月、北京で約1カ月の足止めされた麗と宰だったがなんとか日本にたどり着いた。元彦に召集令状が届いてからほぼ1年。未だに日本に帰ってこない元彦を首を長くして待つ麗と宰だった。宰は2歳となっていた。
 ヨチヨチ歩きで家の庭で農作業をする麗のそばで遊んでいる宰。「アアチャン、アアチャン」と麗に話かける宰。農作業をしながら語りかけた宰の方に目をやる麗。宰は、また「アアチャン、アアチャン」と家の前の人影をを指差した。「何かあったけ。もうちっとでこの仕事も終わるすけ、いい子でいろな」という麗。頭を上げて宰が指差した方向を何気なく見ると田んぼの先から陸軍の古戦闘服を身にまといリックサックを背負った元彦が家の方向にトボトボとぼ歩いて来ていた。
 「宰、父ちゃんだろ。父ちゃんが帰ってきたろ!」麗は、そう叫んで宰を抱っこして元彦の歩いてくる方向へ急いで走り出した。「おお、やっと帰ってこれたかや」といいながら咳き込む元彦だった。「よう帰ってきてくんなさったの。ホレ宰もこんなにに大きくなったすけね」と麗は抱きかかえていた宰を元彦の手に渡した。「宰、元気らったかや。父ちゃんだろ。分かるかや」と宰を抱きかかえる元彦。宰を高い高いしながらも咳き込む元彦だった。宰に頬ずりする元彦。ヒゲ面の元彦の顔がイヤで泣き叫ぶ宰。それを見ながら笑う麗。ようやく再会した親子3人に守門下ろしの五月の風が心地よく吹き渡っていた。          
                                             【続く】