ながおかドキドキ通信


 小説「光る砂漠」−夭折の詩人矢澤宰の生涯ー 
 矢澤家の庭
 1950年(昭25)、宰6歳。秋、家の前の庭では祖父母、麗が畑から収穫した大根を洗ってリヤカーに乗せながら町に売りに行く準備をしていた。
 「かあちゃんオレも手伝うよ」という宰。「ありがとうね。宰はいいから、とうちゃんの薬の時間だからとうちゃんを見てきてくんねかね」と宰にいいかせる麗。「宰はいい子ら。そんだろも元彦のあんべいはなじんがらや」と麗に聞く祖母。「医者からは軽い結核だといわれているがいの。最近、その結核によう効くペニシリンという薬がアメリカから入って来たんで高けろもよう効くみていでちっとば゛かいいみていらて」という麗。「そんだばいいろものう」と相変わらず心配そうな祖母だった。
 
 元彦、麗の寝室
 寝室の障子戸を元気よく開けて入り「とうちゃん薬飲んだ」と元彦に聞く宰。「宰か。今飲んだとこらいや。かあちゃんたちはどうしている」と布団から起きながら宰に聞く元彦。「これから町へ大根売りに行くってさ」という宰。「そうか・・・」といいながら病弱な自分のふがいなさを恥じる元彦だった。
 「とうちゃんの病気、早よう、ようなるといいね。もし治らんかったらオレ、小学校に入ったらいっぺいこと勉強して医者になってとうちゃんの病気治してやるすけの」という宰。「そうか、ありがとな・・・」と元彦はいいながら宰の父想いの言葉で胸にこみあげてくるものを感じるのだった。
【続く】