ながおかドキドキ通信


 小説「光る砂漠」−夭折の詩人矢澤宰の生涯ー
 三条市にある浄土真宗東別院のお取り越の路上
 11月の夕暮れ、元彦は入院している宰を見舞うた三条に来ていた。東三条駅から出ているバスに乗って途中下車。宰に何か土産でも買って行こうと植木屋や屋台の飲食店が並ぶ本路小路を歩いていた。この地方では珍しいタコ焼きを売っている露天の前で足を止めた時、三条にハサミを納品に来た帰りの見附の知人宮島が元彦の後ろ姿を見つけて声をかけた。ビックリして後ろを振り向いた元彦。
 「ひさしぷりですのう」という元彦。「お前さんもお取り越の見物らかて」という宮島。「はあ、そいがあて。宰に土産でも買うて病院へ行こうかと思うてのう」という元彦。「お前さんとこの倅さん、しかも長いこと入院しているがってのう」と気の毒そうにいう宮島だった。「腎臓が悪いんでのう」といいながら寒さのため咳き込む元彦だった。「そうらってのう。ほんに気の毒だと思ってますて。オレはこれから植木でも見て帰ろうかなと思って。そんにしても矢澤さん、お前さんもどっか悪いみてらろも大丈夫らかいの」とやつれきった元彦を心配心場する宮島だった。
 「戦争から帰って来てからどうも具合がようねえてのう。今度、オレも医者に診てもろうかと思ってのう」という元彦。「そんらばいい。気つけてほうがいいれのう」と宮島は元彦の具合を慮った。「ありがとのう。これから家に帰りなさるがかいのう。いいのう。オラは病院へ行くもんで気が難儀でのう」と元彦は病人を抱える苦悩を吐露していた。
 「倅さんもそのうちきっとようなるすけ元気だしてのう」と元彦にいたわりの言葉をかける宮島だった。「バスの時間なんでそんじゃまたのう」と宮島に別れのあいさつをいってバス停へと急いだ元彦だった。
【続く】