ながおかドキドキ通信
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小説「光る砂漠」ー夭折の詩人矢澤宰の生涯ー
宰の病室
私服で半そで姿のゆきが宰の病室を訪れる。窓の下にはアジサイの花が咲いている。外は雨。
「宰君 元気」といって宰の病室に入って来たゆき。宰は相変わらずベットの上で詩を創作している。「ゆきさん今日は非番ですか。だいぶ会わなかったよあらねえ」とうれしそうにいう宰だった。「梅雨時期ていやだいね。どうしてこんげにうっとうしいのなんだろうね・・・。詩もいっぱいできたんだろうね」というゆき。「今度、手作りで詩集をまとめようとおもっているんだ。気に入った詩だけ集めてね。その時、ゆきさんも手伝ってくんるよね」という宰。「いいわよ」とゆき。
「ゆきさん、それに頼みがあるんだ」と宰。「なんだろかね」とゆき。「急がねえんだろも本を買ってきてもらいてんだ」と宰。「何という本なの」とゆき。
「きけわだつみのこえという本なんだ」と宰。「その本て特攻隊の人たちの本でしょう。私も本の名前だけは知っているけど、どうしてそんげな本が読みたいの・・・」といぶかしがるゆき。「この間、安保反対のデモで東大生の女の人がデモに押しつぶされて死んでしまったろうね。オレ思ったんだろもあの死んだ人てば社会に対してよっぽろ一生懸命だったんだろうね。社会に対して真実を訴えて人もいるのにオレは自分一人が救われようとして悩んでいるのが恥ずかしい気がするんだそんげなことを考えると人間の死てなんだろうと思うがです。そいで人間の死というものがどういうものか知ってみたくなったんです」と宰。「それは分かったげど何でそんなに死というものにこだわるの。私、ちょっと理解できないわ・・・」というゆき。「死について考えることは生きるということにつながると思って」という宰。「・・・」とゆき。
「ひとが恋しくて泣いたのではない!大空をかけめぐりたくて泣いたのでもない!お前と面をくっつけてそれから、そうっと間暗闇で所々、金粉もまじった夢のあたりをあらためて見まわしたとき、本当に本当に命の不思議を感じて 頭が四方にはじけ飛ぶようだったのだ!その時俺の胸の中に逆巻く血のしぶきを かわいそうなお前は涙と間違えただろう! とりけせ! お前のことがこわくてないたのではない! さあ早く!(死に抗議する)」 (続く)