ながおかドキドキ通信


    小説「光る砂漠」−夭折の詩人矢澤宰の生涯ー
             三條結核病院小児病棟の大部屋の病室   
 暑さに蒸しかえる小児病棟の病室。窓は開け放たれている。外にはヒマワリの花が太陽に照りつけられている。肌を露出した寝巻き姿の宰。ベットで本を読んでいる。そこに吉住先生が入って来る。宰は吉住先生の姿を見てベットから起き上がる。
 「ああ、そのままでいいよ。どうだい最近の体調は」と吉住先生。「オレ何かもう病気じゃないみたいですよ」と宰。「そうかそれはいい。どうだい、おじいちゃんの仏壇におまいりしに3日くらい家に帰ってみるかい」と吉住先生。「ええ!家に帰れるんですか!」と宰はあまりのうれしさに大声でさけんでしまった。「そんなに大きな声を出しちゃだめだよ。みんな休んでいるんだから」と微笑みながら宰を諭す吉住先生。「でも、どうして家に帰っていいんですか」と小さな声で吉住先生に訊ねる宰。「それは君の体の具合がいいからだよ。このままいけばそんなに遠い時期にならなくても退院できると思うので、そろそろ普通の生活にも慣れておかないとね」と吉住先生は宰の問いにていねい答えた。「そうですか。ありがとうございます」と宰は涙声になりながら吉住先生に礼をいう。「宰君。この病室には君も知っている通り病状が思うように良くなく家に帰りたくとも帰れない子もいるのだからあんまりうらやましがらせないようにね・・・」と吉住先生は宰に大部屋の子どもら患者への気配りを促した。「先生、ありがとうございます」と涙を流しながら吉住先生にお礼をいう宰だった。「それじゃ今週の日曜日から家に帰ってもいいよ。家には私から連絡しておくからね」と吉住先生。
 まだ金曜日の夜だというのに宰は家に帰る準備をしている。傍らの少年が不思議に思って宰に話かける。「宰にいちゃん。どっかへいくがあ・・・。もう退院して帰ってこねえがあ・・・」と少年。「ううん。ちよっと新潟の大学病院まで検査を受けに行くがあて。火曜日の夜には帰ってくるすけ・・・」と少年を諭す宰。「オレまた宰にいちゃんが退院して帰ってこねがあと思って・・・」と少年は寂しそうな顔をする。「まだ退院なんかしねえて。すぐ帰ってくるすけ。心配しないでいいよ。それよかもう消灯の時間だすけはよ寝ろれ」と宰は少年をせかせて部屋の電気を消した。
 暗くなった病室で宰はうれしさから興奮して寝付かれず、らんらんと輝いた目は天井を見つめている。「毎夜ベットが聞いていた 汽車に乗って 今、私は家に帰る」(矢澤宰詩集「汽車」から)
     (続く) 
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