ながおかドキドキ通信


 小説「光る砂漠」−夭折の詩人矢澤宰の生涯ー
   矢澤家の茶の間
 宰の卒業を祝って茶の間には、夕げのごちそうが飯台に並べてある。祖父の一、父の元彦の2人が鯛の焼き魚をツマミに一杯やりながら話していた。麗が2階にある宰の部屋から出てきて食卓についた。
 元彦が麗に向かって「宰のあんべいはどうなんだ」と聞く。麗は不安げな顔つきで「何だか普段の体のぐあいとちっと違ごうみてらて」という。元彦は杯を飯台に置いて「そんげにぐあいが悪りいのけえ。困ったねかのう」といって顔には不安がよぎってくる。
 麗が元彦に「お前さん、悪いろも明日、宰をどっか大きい病院に連れてって診てもろうてもらわんねろかのう」と話す。元彦は杯を手にしながら「分かった。明日オレが長岡の日赤に連れてゆくこてや」と麗の申し出を承知した。

  長岡日赤病院の内科診察室
 宰は上半身裸となって医師の診察を受けいる。傍らには元彦が心配そうに立ってその様子を見ている。医師は聴診器を外し、それまでの問診の結果などから判断して「おとうさん。セガレさんは腎臓がおかしいようです。それもだいぶ病気は進んでいるようです。詳しい検査の結果を診てみなければ何ともいえませんが入院して詳しく調べた方がいいでしょう」という。宰の体調を予想もしていなかった元彦の顔は見る見るうち青ざめていった。医師は続けて「入院は、まだ小学生ですからウチの病院よりも小児科と養護学校もある三條結核病院の方がいいでしょう。あすこの吉住先生には私から紹介状を書いておきます」と話した。
 事務室で診察料を払い玄関で靴の番号札を渡し靴を履き、玄関前にあるバス停留所にあるベンチにガックリと肩を落としながらバスが来るのを待つ元彦と宰親子だった。この日、長岡の空は青く晴れて桜の開花も間もなくを予想させる春うららのおだやかな天気だった。