ながおかドキドキ通信


 小説「光る砂漠」ー夭折の詩人矢澤宰の生涯ー
     矢澤家の茶の間
 茶の間の奥の仏間には灯明がともり宰の祖父、元彦、麗、宰がそろい元彦の帰国を祝った、ささやかな夕げが飯台を囲んで始まっていた。
 祖父「元彦、よう帰って来たのう。長げい間、本当にご苦労だったで。中国で稼いでいたお前までが召集されたとはのう・・・。そんでもこうして帰ってこれたんでオラもうれしいで。宰もうれしいと思ってるこてや。のう宰」といいがから杯を持った反対の手で宰の頭をなでた。
 「ありがとうのおとっつあん」といいがら咳き込む元彦だった。「元彦、お前どっかあんべい悪りいのかや。何だか戦地で体をぼっこしたみたいだで」と息子の体を心配する祖父だった。「敗戦となってオレが入隊した部隊は中国側の手で武装解除され捕虜となって中国の延安に送られただてば。食べるものはジャガイモと高粱入りの飯がほとんどだった。戦友の何人かは栄養失調で死んでいった。オレも明日死ぬかもしんねえと思ったろも、こんげな理屈にあわねぇ戦争で死んでゆくわけにはいかねぇと思って頑張っただてばね」と涙ぐみながら話す元彦だった。
 「大変だったがあなあ。そんでもこれからは宰も元気だしオレたちもいるすけ元気だせや。のう」と元彦をはげます祖父だった。
 台所から宰の祖母が器に載せた名物のウルメを持って食卓に置いた。「ああウルメだと!」笑みをこぼす元彦だった。「これはなあ、お前が帰ってきと聞いた隣の九助ろんの倅が刈谷川で獲ってきてくっただてば。喜んでたべろや」と祖母は元彦にそういって聞かせた。「九助ろんは皆、元気なんだろかのう」と祖母に聞く元彦。「皆、元気らてば。お前より2つ下の倅は体のあんべいがようなかたんで戦争には行かんかったろも今は田んぼしながらメダカ獲って稼いでいるみたいらろ」という祖母。「アイツそんげなことやって稼いでいるのけ・・・。オレもこれから頑張らばのう」という元彦だったがウルメを食べながらもまた咳き込んでいた
。               【続く】