ながおかドキドキ通信


 小説「光る砂漠」−夭折の詩人矢澤宰の生涯ー
  三條結核病院手術室前
 中国で現地召集され慣れない軍隊生活で肺結核を発症した元彦。アメリカから入ってきていた抗生物質ペニシリンの投薬で何とかしのいでいたものの、ついに病も悪化して三条結核病院に入院。即、手術が行われた。右肺の摘出手術を終えて手術室から台車に乗った元彦が意識は戻っていないが顔面蒼白になりながらも出てきた
 宰の病室
 昨年末、右肺の摘出手術をした元彦。あれから約半年、経過も順調だった。宰は相変わらずベットに寝たきりの生活だった。大部屋に入院している元彦が小児病棟の宰を見舞っていた。
 「宰、元気でいたかや」と宰に声をかけた元彦。「うん。入院した時から比べると体調もいいみていら。血尿もいまんとこ出てねえみていらし・・・。とうちゃん。寝てばっかりで退屈なんでこの頃、オレ詩書き始めたんだれ」という宰。「おお、そいがかあ。でえみしてみろ」という元彦。「うん」といいながらベット脇のサイドテーブルの引き出しからノートを取り出そうとするが、元彦が引き出しからノートを取り出した。ノートをめくりながら「ほお。ようできてるろ。宰」と元彦は誉めた。「そんらろも、とうちゃん体の具合いいがかいの」と元彦の体調を気づかかう宰だった。
 「手術して悪いとことったんで体調もいいし、咳も出ねぇからもうすぐ退院だろう」とうれしそうな表情ではなす元彦だった。「そういがあ」とちょっと寂しそうな表情の宰。「何か心配か」と宰に聞く元彦。「肺とったがあろう。それでとうちゃん仕事できるがあ」という宰。「お前がそんげんこと心配しねぇでもいいがあや」とムッとしながらいう元彦。
 「とうちゃん、オレ頼みがあるがあ」という宰。「何だや」と応える元彦。「オレさ、とうちゃんがここの病院に入院しているすけ毎日のようにとうちゃんに会えるすけいいろも、オレよりもちいちゃくて一人で病気なおそうとしている子もいるが。14にもなってまら親に甘えてみてえでオレやんがあ。だっけあんまりオレのとここねぇえでくれね」という宰。「へぇ14になったかや。そうらなちちぇ子もいるしなあ」としみじみいう元彦。「とうちゃん、本当にわかったがあかいの」という宰。「おお、わかったいや」という元彦だった。
 元彦は宰のベットの布団のズレを直しながら寂しそうに宰の病室を出て行った。
 この頃、宰に続いて元彦まで入院してしまった矢澤家の家計は火の車だった。麗は元彦、宰の入院費用を捻出するため見附市内の商店街に小さな店を借り、惣菜の天ぷら屋を開業していた。 

【続く】