ながおかドキドキ通信


http://www.ac-koshiji.com/

 小説「光る砂漠」ー夭折の詩人矢澤宰の生涯ー
            三條結核病院宰の病室
 朝の宰の病室。ゆきが検温に宰の病室を訪れる。
 「宰君 具合はどうお」とベットの中の宰に話しかけるゆき。「まあまあです」と元気なく投げやりに答える宰だった。「どうしたの。何かあったの宰君。おかしいよ。熱でもあるの」と体温計を見ながら宰のひたいに手を当てるゆき。「熱もないようだし・・・。何を考えているのか話してみたら」と宰の心情を吐露させようとするゆき。
 「オレこの頃、このまま病気が治らないんだったら死んだほうがいいのかなと思ったりするんだ。いつ治るかわからない病気で金ばっかりかかって・・・。それに退院しても本当に普通の生活ができるか分からんし・・・。そんげんだったら早いとこ死んだほうが皆に迷惑かけねえでいいしなあとかね」と鬱積した心の内を話した宰だった。「何を馬鹿なことゆってんの。死んで誰が喜ぶのよ。皆悲しんで泣くだけよ。病気が大変だからといってそんなこと考えないで。そんな考え方私キライよ」とゆきは烈火のごとく怒りだし、しまいには泣いてしまった。
 「お願いだからそんな死にたいなんて思わないで」そういってゆきは看護衣のポケットから中原中也の詩集を取り出して宰の枕元に置いた。「宰君が詩を書き始めたから私何か参考になればと思ってこの本買ってきたのよ。これを読んで病気のこと忘れて、いっぱいいい詩を創ってくれるの私楽しみにしているのよ。だから死にたいなんていわないで」とゆきは涙ながらに宰を諭した。「ゆきさん。ごめんなさい。ゆきさんがそんげに心配してくれてるなんてオレ思わなかったんで・・・」と逆に宰は泣きじゃくるゆきを慰めるように話す宰だった。「この詩集読んでもう一度、頑張ってみますんで心配しないでくんなさい」という宰。「きっと病気は治るからね。あきらめたらだめらよ」と涙を拭きつつ宰の病室を出て行くゆきだった。

http://www.h7.dion.ne.jp/~kousya/