ながおかドキドキ通信


   小説「光る砂漠」ー夭折の詩人矢澤宰の生涯ー
   5月、宰の病室と養護学校の一日
 養護学校で行われている授業。目をみはらんばかりの宰の真剣な学習態度。病院では13歳で入院以来、初の入浴。おそるおそる湯船に入る宰。そして湯に浸かって気持ち良さそうな表情を見せる宰だった。
 「5月2日、水曜日。浴場清拭許可。湯を全身に浴びたのは4年数カ月ぶり。気持ちが良かった。でも頭がボーとして・・・」(宰の日記から)。
 
  1962年5月7日、宰満18歳。宰の病室
 日曜日、ゆきが私服姿で宰に数学を教えている。「宰君、もう私が数学を教えることなんてないみたいよ」とゆきがいう。「でもオレまだ分からんことが多いすけもうちっと教えてほしいがあろも」と宰。「・・・。そうらね。だけど最近、私もちょっとばかし難しくなってきたからね」とゆき。そこに吉住先生が入ってくる。
 「ゆきさんも来てたのか。時々、宰君に数学を教えていたということは聞いていたよ」と吉住先生。「教えているなんてそんな大げさなもんじゃないですよ」と照れるゆき。「ところで今日は宰君。君の誕生日だったね」と吉住先生。「そいがあです。いろいろとありましたかず今日で満18歳になったがあです」と宰。「宰君、今日が誕生日だったの。おめでとう」とゆき。「ありがとうございます。何とか18歳まで生きてこれましたて」と宰。「今日はね、誕生日と思っていいプレゼントというか君が喜ぶ話をもってきたのだよ」と吉住先生。「何だろかねえ」と宰はゆきの顔を見ながら不思議そうな表情を見せた。「宰君、今日から大部屋ら移ってもいいよ」吉住先生。「ええ、大部屋って養護学校の皆と一緒の部屋ですよね」と宰。「そうだよ。君の体の具合もいいんで前から考えていたんだ。そろそろ退院に備えて皆と一緒の生活に慣れることも大事なことだと思ってね。どうだいいい誕生日プレゼントだろう」と吉住先生は微笑みながら宰に話した。「いよいよ一人の部屋から出れるんだ」と力強い表情を見せる宰。「よかったねかて宰君。そうなれば早く引越しをしなければならないね」とゆき。「そうだね。ゆきさんにも手伝ってもらって引越しするといいね。だけどあんまり重い物を持ったり力仕事はやらないようにね。分かっているね」と吉住先生。「はい。分かってます」と勢いよくベットから降りる宰だった。

>http://www.ac-koshiji.com/

http://www.h7.dion.ne.jp/~kousya/

http://fmnagaoka.com/fm/