ながおかドキドキ通信


 小説「光る砂漠」−夭折の詩人矢沢宰の生涯ー
   嵐南病院の病室
 セーラー服の上にアノラックをはおったゆき。病室の前に貼り出されている名前を確かめている。「松本正」と記された札を見つけ病室のドアをノックするゆき。
 少年マガジンの漫画本をベットで見ながら「どうぞ」という松本。ゆきはアノラック姿で入ってゆく。「松本君、元気らった」と聞くゆき。「ああ、ゆきらか。来てくれてありがとね。オレもう高校へも行けねえし野球もできねえみてえなんだ」と寂しそうにゆきに訴える松本。「それってどういうことら」と詳しく訊ねるゆき。「腎臓病で3カ月入院しろと医者にいわれたんだ」と松本。「ふうん。大丈夫らて。きっと良くなるて。春になれば野球もできるし高校へも行けるて」とゆきは松本を慰めるようにいう。「高校の試験にも行いかんねえし、もう激しい運動もだめらと医者にいわれたんだ・・・。オレ何していんんだが、死んでしまいてえんよ」と悲観にくれる松本。
 「そんな・・・」と悲しそうなゆき。「正月にかあちゃんと妹と三人で長岡の悠久山の蒼柴神社に初詣に行って来たが。松本君に約束した高校受験のお守りをもらってきたすけ届けに来たの・・・」とアノラックのポケットから袋に入ったお守りを出すゆき。「もうそんげなの用事ねえろ」と投げやりな態度の松本。「そんげなこといわんで貰って、ここに置いておくすけ」とゆきはベットの脇のサイドテーブルにお守りを置こうとする。「そんげなことしたって無駄らいや」と松本がベットから起き上がってお守りを払いのけようとする松本。「せっかくもらってきたのになにするが」と床に落ちたお守りを拾い再びサイドテーブルに置こうとするゆき。その時、松本の右手がお守りをサイドテーブルに置こうとするゆきの右手の上を覆う。驚くゆき。ベットからジッとゆきを見つめる松本。やや顔を赤らめるゆき。
 「ありがとね。ゆき。オレあきらめないで病気を治して甲子園を目指すけ」と元気よくゆきに話す松本。「きっと治るすけ諦めないでね。私、毎日、神様に祈っているよ」と松本と触れ合った右手を大事そうにさすりながら話すゆき。「私、帰るすけ。元気でいてね。また来るから」と帰りかけようとするゆきに向かって「ゆき、オレゆきのこと好きら。ゆきのこと思っていると病気のこと忘れるすけ毎日来てくんねえか」と松本はゆきに懇願する。「私も松本君のこと好きら。松本君が喜ぶなら毎日来るすけ」というゆき。「本当らな。オレ待ってるすけな」と元気に問いただす松本。「じゃあ私、帰る」と元気になった松本を見てうれしそうに病室を出て行くゆき。
 病室の玄関を出るゆき。あたりは一面の雪景色だが空には満天の星が輝いている。松本に触れられた右手を手袋の上からなでながら星空を見上げて幸福感にひたるゆきだった。
(続く)
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