ながおかドキドキ通信


      小説「光る砂漠」−夭折の詩人矢澤宰の生涯ー
        三條結核病院小児病棟の大部屋
 宰の父、元が風呂敷包みをかかえながら大部屋の病室に入って来る。「みんなおはよう」といいながら窓際の宰のベットに近づく。「とうちゃん、迎えに来てくれてありがとう」とすでに学生服姿で外出に備えている宰は父に礼をいった。「おお、もう着替えているんだな。お前が家に帰ってくるなんて何年ぶりだろうかな」と元は笑顔で宰に話しかけた。宰は「とうちゃん。ここの病室には、まだ病気が良くならねえんで家に帰りたくとも帰らんねえ子もいるがあすけ、あんまりそんげな話はするなあて」と元を諭した。「おお、そえらったな。気がきかんで悪かったな。そうら来るとき皆にと思って醤油饅頭をこうてきたんだ。皆に分けてやれ」と元は風呂敷包みを開けた。「そいがあ、じゃあ皆に分けてやるすけの」と宰は薄皮に包まれた醤油饅頭を病室の一人ひとりに配って回る。大部屋の子どもらは、みんなで一斉に「いただきます」と饅頭を食べ始める。「お前もそれを食ったらそろそろ行こうねか」と元は宰を促す。饅頭を食べ終えた宰は「うん」とうなづいた。「じゃあオレちっとばか新潟の大学病院に検査に行ってくるすけ」と宰は皆にこういって病室を出ようとする。
 宰は小さなボストンバックを手にもって元と二人で病室を出で行った。残った病室の子どもらは宰が外泊で家に帰ったことを悟って元気がない。
 夏の日差しの強い三條結核病院前のバス停留所東三条行きのバスを待つ元と宰。暑さで学生服を脱いでランニング姿になる宰。やがてボンネットバスがやって来る。バスに乗り込む宰と元。バスは舗装されていない道を砂埃をたてて終着の東三條駅へと向かう。病院付近の景色しか見たことのない宰はバスの車中から珍しそうに街の風景に目を奪われる。街の家並みはビルディングなどなく木造の家並みが続いている。やがてバスは東三條駅に着く。

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