ながおかドキドキ通信
小説「光る砂漠」−夭折の詩人矢澤宰の生涯ー
三條結核病院、宰の病室
3月、准看護学院の卒業式を終えたゆきが宰の病室を訪れている。
「久しぶりね。宰君、元気だった」とベットに寝たきりの宰に語りかけるゆき。「ゆきさん、今日は何かあんたの・・・」とゆきをベットから見上げて話す宰。
「今日はね准看護学院の卒業式があってね。私もようく准看護婦の仲間入りよ。宰君も元気でいるがあかなと思ってね来たがあよ」というゆき。「ああ、そうらったがあ」と納得した様子の宰。
ゆきはベットの脇にあるサイドテーブルの上に置いてあった宰が綴った詩のノートを見つける。「宰君、詩を書いているが」というゆき。「はあ・・・」とちょっと恥ずかしそうに答える宰。
ゆきは宰が詩を書き綴ったノートをめくる。その中に女性への憧れを綴った詩を見つけてハッとするゆき。それはすじ雲と題した詩だった。「あそこの空に、長い二本の すじ雲をひこう。すじ雲には 桃色の夕焼けが光る。むこうの山の上の入道雲には、僕の大好きな 看護婦さんを坐らせよう。僕は カンバラの 青い平野に 大の字に寝ていつまでも これらを 見ていよう。」と綴られていた。
「宰君。ここに書かれている好きな看護婦さんて誰んがあ。きっと宰君の好きな看護婦さんてきっときれいな人んがあろうね・・・」と顔を赤らめながら意地悪そうに宰にたずねるゆき。「ええ・・・」と答えに窮す宰だった。
お互いに視線を合わせるゆきと宰。ゆきはうれしくなって急いで宰の病室を出ようと気が焦る。「また来るからね。元気でいてね」とゆきはノートをサイドテーブルに荒々しく置いて病室を出ていった。